雨の中の少女2話
和樹がかび臭い布団に寝ている少女を見てため息をついていた。
「そういやタバコ買いに行ってたな、もう1本も無い……」
和樹は少女を寝かせたままタバコを売っている商店街に行こうと、もう3日は着たままの3年前に買ったニットのチャックをゆっくりと閉めて、アパートの古びた玄関に出ようと
眠たそうな表情の自分の顔を手のひらで叩き、「寝てるみたいだ、大丈夫だろ」と
少女のデコに手を当てて熱が下がっていて良かったと立ち上がろうとした。
すると少女が和樹の手を掴んだ。
いつの間にか目を覚ましていたようだ。
1日前のように睨みつけはしなかった。
それどころか泣いていた。
少女が口を開いた
「あのまま死んじゃえば良かったのに、私……」
すると和樹は辛そうに泣いている少女に話しかけた。
「死んでも何もならないんだよ。
君は辛いかも知れない。僕も親何かとうの昔に死んでる。仕事も無いようなものだ、この部屋を見たら分かるだろ?
君よりはまだマシな暮らしかも知れない、けど、僕も辛くてどうしようもない時はあるさ。」
それを聞いた少女は泣いたまま和樹を見て言った
「何で生きてるの?……」
和樹は言葉に詰まりかけたが続けて少女に話した。
「分からない。僕はいつ死ぬか分からない生活だ。だから自分から死ぬことも無い、死んだら死んだ時だ。今日は生きてご飯を食べていても、明日にはお金が無くてもう生きれないかも知れない。でも死ぬかも知れないから、とりあえず生きてるんだ。」
少女は和樹の境遇に自分を重ねていた。
和樹は自分を助けたが、明日生きてる保証は無いんだ。
かび臭い布団で寝ているのに、何故か和樹の部屋が居心地のいい空間にさえ思えた。
デコのお湯が覚めて冷えたタオルで涙を拭いて
和樹に話した。
「何で助けたの?……私……あなたに酷い事を言ったのに……」
和樹が頭をかいて少女に言った
「それも分からない。偽善かも知れない。僕より酷い境遇かも知れない君の命を……何て言ったらいいかよく分からないが、僕は救いたかった。こんなズタボロな家で助かるかはわからなかったけど……熱が引いて、何だかホッとしたんだ。」
少女は和樹の手を握って泣いたままだった。
どうしようも無い自分と、和樹の事を重ねて見ていた。
外の雨はずっと降ったままだった。
のびたカセットテープと、吸殻の溜まった灰皿のあるテーブルに
タクシーの領収書があった。
ワンメーター550円の領収書だ。
自分をここまでタクシーで連れてきたと、少女は分かった。
明日お金が尽きるかも知れないのに、550円のワンメーターのタクシーの為だけに自分をここまで連れてきた。
少女は泣きながら聞いた
「あなたの名前は?……何て言うの?」
和樹は少女のデコに手をやり
少女に話しかけた
「和樹だよ、君は?なんて名前?」
少女は泣きながら言った。
「名前……あるけど嫌いなの……あなたにつけて欲しい。名前つけて。」
和樹は事情は分からないが名前をつけて欲しいと言ったから死んだ母親の名前を言った。
「僕の死んだ母の名前だけど……レイ。カタカナでレイにしようか。」
雨が降り続ける中の会話だった。
少女は泣きながら笑って言った
「レイ……イイ名前だね……」
雨が降り続く中で二人は打ち解けたようだった。
続く。
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